2008年08月22日

Vol.01 06-09 ニホンザルの社会

 昔からサルにまつわる伝説や物語はたくさんありましたが、サルを見たり、彼等の社会を知ることは、ほとんどありませんでした。サルと人は互いに住み分け、サル社会は深いやみの中につつまれていました。
 1949年の暮、京都大学今西錦司教授と当時京都大学の学生であった伊谷純一郎、川村俊蔵さん達が、都井岬の野生馬の調査の帰途、サルの住む幸島をおとずれサル社会の調査にいどむ計画が立てられました。
 1950年の5月、今西教授、伊谷、川村さん達が、研究に必要な道具をリュックにつめてふたたび幸島にやってきました。ところが、それは猟師たちに幸島のサルたちが追われ、いためつけられた5ヶ月あとであったため、一日中、山の中を歩いてもサルの姿は見あたりませんでした。ただ木の芽をつんだ
あとや糞を見つけてサルがいることを確認して帰るだけでした。
 こうした、むだ足を何度もふみ、根気よくサル達の出現を待つ研究者の前に、やっと姿を現わすようになるまで2、3年を要しました。
 そのような雨風冬夏をいとわぬ情熱的な生態研究が続けられ、これまで知られざるサルの社会の謎が徐々に解けていきました。そのときの研究者の感激は今も私の胸に脈々と鼓動を打っています。説明を聞きながらいただいた写真は色あせてはいますが、私の宝物として、スクラップブックの中にあります。
 今は歴史上のサルとしてここに紹介します。

三戸サツエ

写真は1952(昭和27)年11月中旬より1953(昭和28)年1月下旬までの研究の一こま。
撮影・説明は京都大学伊谷純一郎氏。



ニホンザルの社会 1 この雄は群れのなかでいちばんつよいオスです。

 幸島の群れはたったひとつで、みんなこのオスに従っています。何か悪い敵が来たりしないか、群れのサルたちが安全であるか、たえずこのサルは気を配っています。この写真も高い岩の上から、群れの様子を見守っているところです。非常にたくましく、大きなサルで右足のかかとには古いワナ傷があり、寒い日など片足をひきずることがあります。


ニホンザルの社会 2

群れの中で第3位を占めているオスです。

 この写真は動いてしまいましたが、それはカメラのすぐ前(1m半)までおそいかかって来たためです。まだ若若しく、群れの中でいちばんスマートなオスです。  群れのオスの中で、第2位以下のオスは通常あぶれオスといわれ、群れの周辺部を行動しています。そして群れが何か危険にあったりしたときには必ずこのようなサルの中からどれか1匹が出て来て、警戒にあたったり、敵に抵抗したりします。群れが行列を作って行進してゆくときはこのようなサルが先頭のつゆはらいをしたり、しんがりをつとめたりしています。


ニホンザルの社会 3  これは群れの中で第5番目の位置を占めるオスで、おそらく満4年ぐらいと思われますが、第3位のオスとくらべると体も小さく、まだ子供っぽいところがあります。あぶれオスの中で末席を占めています。
 あぶれオスは2匹で組んで出て来ることが多いのですが、こういった場合に弱い方のオスが敵に向かって攻撃を加えなければならない義務があります。そうしないと強い方のオスからずいぶんひどく叱られます。このようなためかどうか明らかではありませんが、この5番目のオスはよく腕などに傷をしていました。また、一度、おそらく第2位のオスのために、海へ追いおとされたこともありました。
 この写真はわたくしたちが、磯にまいたイモを食べに来たところです。


ニホンザルの社会 4

 メスは一般に毛色などはたいしてオスとはちがいませんが、顔はメスの方が赤いのがふつうです。メスの間にもオスと同じように1位、2位の強さの順位が決まっています。

 このメスは2番目のサルですがずいぶん小さく貧弱です。このような点からして、一般にサルの順位は年齢によってきまるのではないかと考えられます。


ニホンザルの社会 5  生後4ヶ月半の子ザルを抱いて、乳をふくませているメスです。この子ザルは1952年8月15日に生まれました。母親は比較的若いサルで、順位はメスの中で第4位を占めています。この子ザルは母親からはなれて走りまわったり、ほかの子ザルと一緒に遊んだりしますし、もう母親の乳ばかりではなくて、府中の食物も食べるようになっています。これと同じような子ザルが3匹いますが、子ザル同士はとても仲よしで、木の枝に足でつかまってぶらさがり、手ですもうをとるといった変な遊びをします。このようにしてあそんでいるときに、私たちが近寄ったりしますと、側にいた母親が素早くとんで行って、子ザルを腹に抱いたり、自分の尻の上にのせたりして逃げてゆきます。


ニホンザルの社会 6 ここは、島のオオドマリという入江の一部です。

 大きな岩が折り重なっていて、観察には非常に便利でありますので、毎日ここに餌をまくことにしました。幸島の群れは、島の中にたったひとつだけで、その群れは20匹からなっており、そのほかに群れからはなれたオスのサルが1匹います。この写真は、群れの中の7匹が出て来て、餌を食べているところです。休息のときとか、移動するときには、お互い同士が寄りあっているのを見ますが、食物を食べるときだけは、1匹1匹のあいだに、はっきりした間隔が見られます。つまり、1匹1匹が自分のなわばりを宣言しているわけです。その中で一番上等の場所は、一番順位の高いサルが占領します。サルの社会で順位制というものは、おきてのようなもので、多くの行動はこれにもとづいて行なわれます。


ニホンザルの社会 7

 群れの中のまとまりかたを見ますと、同じ年齢のもの同士が集まりあうという傾向があります。この中でもっともはっきりしているのは、子供たちのあそび仲間です。子ザルたちの間には、まだ大人のサルの間に見られるような、はっきりした順位は決まっていません。そして子ザル同士みんなで集まりあってあそぶのをよく見かけます。丁度1歳半位になる子ザルが6匹いましたが、この写真では4匹が出ています。左端の1匹は2年半になるメスですが、同じ年齢の仲間が1匹もいないので、子供の仲間入りをしていました。上の2匹は大人のメスザルです。


ニホンザルの社会 8

 ここに写っているのは、上が順位4番目のオス、下が順位3番目のオスです。これはオス同士で行われていますが、丁度交尾の姿勢と同じです。この写真を写す直前には、これと丁度逆で、第3番目のオスが上、第4番目のオスが下になっていました。そしてつぎに交代して、この写真のようになったのです。一般には、この交代は、極く小さいサルの間には見られますが、これだけ大きくなったものに見られることは、珍しいことです。オス同士で交尾の姿勢をとるということは、社会的にひとつの意味をもっています。この写真では交代したため逆になっていますが、一般には弱い方のオスが、強いオスの前で、メスの交尾姿勢をとり、それに対して強い方のオスが交尾をします。これによって、弱い方のオスは強い方のオスから攻撃をさけることが出来るのです。とてもひどく追いまわされているようなときでも、弱い方が召すの交尾姿勢をとったために、それ以上追われなくてすむということはしばしばあります。この関係は弱い方にとってみると、いわば降伏のしるしであり、両方の仲なおりのような意味を持っているわけです。この写真をとったすぐあとにおこったのがつぎの㈷の写真です。


ニホンザルの社会 9  和解がなりたつと、たいていの場合は、この写真のように2匹の間で毛づくろい(グルーミング)が行われます。ただ注意すべきことは、弱い方が強い方の毛づくろいをしてやるということです。ふつうのグルーミングですと、たとえ一番強いオスと、小さい子ザルとのグルーミングの場合でも交代のあるのが通常なのですが、この場合だけはもっぱら強い方が毛づくろいをしてもらう一方で交代はありません。
 この写真は、第4番目のオスが一心に第3番目のオスのグルーミングをしているところです。片手でふかぶかとした毛をわけて、もう一方の手でたんねんに毛の間にくっついているゴミやフケをとり、ときどきそれを自分の口にもってゆきます。これはシラミとりではなくて、毛のあいだにたまっている塩分をとっているのだといわれています。
 このようにたえずグルーミングをしているために、野生のサルは非常に手入れの行きとどいた美しい毛をしています。


ニホンザルの社会 10  まるで置物のサルが3ツおいてあるように、3匹並んでいますが、右が群れで一番強いオス、まんなかは、メスの中で第4位のサル、左が第2位のメスです。幸島では交尾期が正月頃からはじまりますが、この写真は交尾期があと1週間に近づいたころのある朝とったものです。発情に近づいたメスは次第にオスに近寄るようになります。そして一番強いオスのまわりに集まって来ます。群れには順位にもとづいた秩序があることはすでに書きましたが、発情期のメスの間には一番強いオスを中心にして、もうひとつ別な秩序が見られるようになります。すなわち発情の強さの度合いによってリーダーのオスに近寄れる特権の順位が決まるわけです。この写真は以上のような関係をよくあらわしています。オスの近くにいる第4位のメスの方が、第2位のメスよりも順位がひくいにもかかわらず、発情がすすんでいるためにオスの近くに寄ることが出来、オスから庇護をうける度あいも大きいわけです。餌を食べるときでも発情のすすんだメスは、オスと一緒に食べることが出来ます。
 この写真のような状態がしばらくつづいたのち、1匹のメスの発情が更に進んで来ますと、そのメスとリーダーのオスの2匹はひときわ強いまとまりを示して、夫婦生活に入っていきます。


ニホンザルの社会 11  生後1ヵ年半になる子ザル同士が2匹で、あたたかい岩穴の中に入って、グルーミングをしています。脇の下あたりをグルーミングをしていますので、されている方は片手をあげています。㈷のグルーミングとはちがってこのようなふつうのグルーミングの場合は、しばらくたつと必ず交代があります。採食をおわったあと、ひだまりに出て、あちらでもこちらでも2〜3匹つづかたまってグルーミングをしますが、これは彼等の日課のひとつになっています。雨のあとなどにはとくにたんねんなグルーミングが見られます。


ニホンザルの社会 12

 (1)の写真に出て来た例の一番強いオス、群れのリーダーです。大きな口をあけているのは、こちらに咬みつこうとしているのではなくて、あくびをしているのです。これは、約3mのところから撮ったのですが、特に警戒の厳重なこのオスに、こんな近くまで接近できるようになるまでには、随分苦労がいりました。とくにたくましいリーダーの特徴がこの写真ではよく出ております。





『こうしま 幸島 HAPPY ISLAND 1992. SPRING』の表紙及び6〜9ページより転載。


このコンテンツ及び写真等は、発行人の許可を得て、冊子『こうしま 幸島 HAPPY ISLAND』より転載したものです。オリジナルを出来るだけ忠実にコンテンツ化しているため、ページのつなぎ目や文字が重なった写真やイラスト等は、特別な加工を行わず、そのまま掲載しています。


こうしま 幸島 HAPPY ISLAND 1992. SPRING

発行日:1992年1月31日
発行所:財団法人幸島自然保護センター設立準備委員会
発行人:三戸サツエ(〒889-33 宮崎県串間市大字市木150)
写真協力:宮崎日日新聞社、芥川仁、河野充、中原聡
イラスト:有明小の子供たち、篠原太郎
posted by みやざきの自然 at 20:34| こうしま | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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